住宅の断熱や省エネ性能への意識が高まる中、「屋根断熱」という言葉は広く知られるようになりました。しかし、屋根断熱が日本で正式に文書化されたのは意外にも最近で、1992年の省エネルギー基準解説書が最初です。
この時点では国内に十分な研究データがなく、「屋根断熱には通気層が必要」とだけ記載されていました。基準策定において参考にされたのは、建築環境・省エネルギー機構が欧米から収集した施工規定で、その中でもフランス施設省の基準には「通気層の厚さ30~60mm」と明記されていました。
通気層「30mm」が基準化された理由
通気層の厚さが明確に数値として示されたのは、1999年版の省エネルギー基準解説書からです。同様の内容は1998年改訂の旧住宅金融公庫(現:住宅金融支援機構)工事仕様書にも掲載され、全国へ広がっていきました。
その裏には、実大実験によって得られた科学的根拠があります。
- 通気層の厚さ18mmでは通気抵抗が増え、換気量が低下した。
- 30mm・45mm・90mmでは通気抵抗に大きな差がなかった。
つまり、18mmでは不足、しかし30mm以上であれば性能が確保できることが実験で確認されたため、30mmが実用的かつ施工性の高い数値として採用されたのです。
北海道では独自仕様が存在した
寒冷地では屋根断熱の検討がさらに進み、旧住宅金融公庫仕様書の北海道版には、
- 通気層厚さは30mm
- 積雪障害回避のため換気口面積まで規定
という詳細な基準が存在していました。これは現在の基準にはほとんど見られないもので、今でも貴重な参考資料となっています。
通気層の厚みは目的によって変わる
現在の住宅設計において、通気層の厚さは目的によって判断されるべきものとされています。
| 目的 | 必要性能 | 推奨厚み |
|---|---|---|
| 冬の結露防止・積雪障害対策 | 一定の換気ができれば良い | 30mmで十分 |
| 夏の遮熱・屋根裏温度低減 | 風量・排熱性能が重要 | 厚いほど効果あり(60〜90mm) |
実験では、通気層が30mmと90mmの場合を比較すると、夏季昼間の内部温度が90mmの方が10〜15℃低かったという結果も確認されています。暑さ対策としては、厚い通気層が高い効果を発揮します。
現代の考え方
ZEHや断熱等級の引き上げが進む中、現在の設計では次のような方向性が採られています。
- 結露対策重視 → 最低30mmの通気層
- 日射・夏の快適性重視 → 45mm〜90mmの厚み
- 寒冷地 → 通気層だけでなく換気口面積設計が重要
また、近年では高性能防湿層を使用した無通気屋根工法も研究されていますが、施工精度が必須であり、現時点ではリスク面から慎重な扱いとなっています。
まとめ
屋根断熱における「通気層30mm」という数値は、偶然でも適当でもなく、実験と検証に基づく合理的な判断でした。
しかし現在では、「目的に応じて設計する時代」に変わりつつあります。
- 結露防止 → 30mmで十分
- 夏の快適性向上 → 厚みを増やすほど効果
屋根は建物の性能と寿命に直結する重要な部分。断熱性能を高めたい場合、通気層の厚みと設計意図を踏まえた判断が欠かせません。
屋根修理に関するコラム
屋根修理に関するコラムを随時投稿しています。

































